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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)417号 判決 1950年6月27日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人土岡正三弁護人飯田信一の上告趣意第一点について。

論旨は、原審が被告人土岡正三を懲役三年に処したのは刑の量定甚だしく不当であり正義感に反するとしてその理由を詳細に述べているのであるが、このような主張は上告の適法な理由には当らないので採用することができない。

同第二点について。

論旨は、本件傷害は大西政寛單独の意思に出たもので被告人土岡正三等が共謀の上行ったものではないというのであるが原判決挙示の証拠によれば、被告人が原判示のように大西政寛らと本件暴行を共謀した事実を認定し得られるのであるから原判示の傷害致死の結果につき責任あることは明らかである。所論は原審に事実の誤認あることを主張するものであって適法な上告の理由に当らないから採用することができない。

被告人住吉静登弁護人堂野達也の上告趣意について。

論旨は、本件につき被告人等において共謀した事実を認むべき証拠がないばかりでなく、原審の判決した事実によっても被告人等の共謀は小原馨と桑原秀夫との間に話合がつかず喧嘩となった場合を仮定し、これに共謀による暴行の意思を條件づけたものである。しかもその條件は成就しなかったのであるから、被告人等には暴行の意思決定もなく、又それを行動に現わす余地もなかったことは判文上明らかである。されば、小早川守の傷害行爲は共謀に基くものではなく小早川の誤解による單独の行為に過ぎないのであるから被告人等に責任がないのに原判決が被告人に共犯者としての責任を認定したことは理由齟齬の違法がある。なお、原判決が判示するように二階の物音に被告人等において喧嘩が起きたと速断して二階に馳せ上った際には暴行の意思があったとしても二階に上って喧嘩がない事実を認めてその意思は消滅したものであるというのである。

しかし、原判決挙示の証拠によれば被告人等が原判示のように桑原秀夫と爭闘すべきことを暗に共謀した事実を認定することができるのであるから、共謀の点につき証拠がないとの論旨は理由がない。なお、原判示によれば、被告人等の共同暴行の意思を実行に移す時期については所論のような仮定的事実の発生にかゝらしめたように見えるのであるが、その趣旨とするところは、被告人等において桑原秀夫方階下に待期中突如二階で物音がしたので予期の如く喧嘩が始ったものと速断して二階に押寄せたのであるから、被告人等は既に互に意思を連絡して共同暴行の意思決定をしたことを判示したものと解されるので、原判決には所論のような理由齟齬の違法はない。そして、共謀者の一員たる小早川守が桑原秀夫に傷害を加え死に致した以上、被告人もまたその結果につき罪責を免れないことはいうまでもない。論旨においては、被告人等は仮に二階に馳せ上った際に暴行の意思を有したとしても、喧嘩のない事実を認めてその意思は消滅したと主張しているが、かゝる事実は原判決の認定しないところであるから所論は採用することができない。

よって、本件各上告を理由ないものと認め、旧刑訴法第四四六條に従い主文のとおり判決する。

以上は当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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